以前ご紹介した「山中うるし座」と隣接する建物が石川県立山中漆器産業技術センター(石川県挽物轆轤技術研修所)です。
日中は耳を澄ますと、「ガーガー」「カンカン」と木地を轆轤(ろくろ)で削ったり刃物を鍛造する心地良い作業音が漏れ聞こえてきます。
同センターは、山中漆器の原点で、全国の頂点に立つ「挽物轆轤技術」の習得と後継者育成及び将来の山中漆器産業をになる人材の養成、自主研究等を行うための産業振興の中核施設として平成9年4月に開設されました。
日本で唯一「挽物轆轤技術」及び「漆芸技術」を専門的に学べる研修施設です。
平成30年4月からは、若手木地師の自立開業を支援する「レンタル工房」を開設し、山中漆器のさらなる発展・振興を図っています。
専門員の呉藤 安宏さんにご案内、ご説明いただきました。
ー2階はギャラリー・展示エリア
呉藤さんの後ろに広がるエリアは、館内2階にある作品展示室・ギャラリー。
ちょうど取材時期は、「JAPAN 漆 YAMANAKA木地新作展 加賀市永久保存作品 ~先人たちの軌跡~」が開催中でした。
これは例年11月上旬に開催する「JAPAN 漆 YAMANAKA」の木地部門の回顧展で、来年の3月まで開催しているそうです。例年11月上旬に2日間だけ開催する「JAPAN 漆 YAMANAKA」は当所も後援協力をしており、木地・上絵・蒔絵の3つの部会に分かれた作品の展示販売や、職人たちによる新作展示が主で、同時に加賀市永久保存作品も見ることができます。
特に木地の展示では、挽物木地産地山中の特徴である「薄挽き」や、木地に様々な模様をつける山中独自の高度な技「加飾挽き」の伝統技術を駆使したものから、近代的なデザインや機能を備えたものまで並んでおり、見応えがある展示内容です。
ー木製漆器の轆轤技術者の育成のために
同センターでは挽物轆轤技術研修所としても、毎年11月~翌1月上旬まで研修生を募集しています。
試験は面接と作文。カリキュラムは「基礎コース」と「専門コース」の2つ。定員は毎年各5名、両コースとも修業年限は2年。
全国からものづくりが好きな方が習いにくるそうです。
呉藤さんに見せていただいた募集パンフレットのキャッチコピーがまたいいので見て下さい。
”400年間君を待っていた”
「400年」という数字は、日本の木地師発祥の地といわれている滋賀県から、豊富な木材資源を求めて山中温泉上流域に移住した木地師たちによる山中漆器のはじまりが、およそ400年以上前だったことを意味しています。
「基礎コース」は毎週月曜~金曜の授業のうち、週3日は轆轤実習で他は漆芸や木工に関することなど学んでいます。轆轤実習では基本的な挽物轆轤技術を学びます。
修了後、約6割 がもうひとつのコース「専門コース」へと進学するといいます。
専門コースは職人を目指す研修生が多く、毎週火曜・水曜の週2日のみなので、インターンシップで工房に通いながら通学する方も多いそう。
これまで美術系の学校で学んでいた方が研修生の約1/6、家業に関連性がある方が研修生の約1/4を占めます。
漆器を作る(漆を塗る)ことを学べる大学や研修所は全国にも複数ありますが、形から自分でオリジナルを作りたいという方にはこちらの研修所がピッタリです。
卒業後は約半数が県内に住み、その半数以上が市内に住むことが多いというデータがある一方、残念ながら漆器関係の勤め先は少なく、独立起業してこの地に残るか故郷で活動する方がほとんどだといいます。
その理由として、全国的にみてもほとんどの木地師は家内工業で製造しているため、修行先から独立した後は、自分の工房を構えるのが一般的だからです。また、勤め先があったとしても、研修所に入学する必要のない仕事だからという現実も。
しかし、県外から加賀市に根付いた有望な人材も生まれています。
山中漆器を1から1人でつくるアーティストとしては、以前ご紹介した田中 瑛子 氏。山中漆器を分業で携わる職人としてはレンタル工房を活用しつつ独立した濱口 徹 氏たちが修了生でいらっしゃいます。
ー実技の授業を見学
研修所のことをお聞きした後は、1階の「ろくろ室」に移動して、先生の指導を受けながら轆轤を使って木を挽く研修生たちの実技授業の様子を見学させていただきました。
研修生たちの年齢や性別は様々ながらも、とてもアットホームな雰囲気。コースや学年ごとに共通課題があり、木地作りに邁進していました。
と、その中でも人だかりができている場所が。
なんと、重要無形文化財保持者(人間国宝)「木工芸」であり、同センター・研修所の所長でもある川北 良造 氏が直に指導にあたっていらっしゃいました。
川北氏は言葉で教えるだけでなく、やってみて背中で教えてくれるといいます。
この時も、研修生が使っていた道具をすばやくチェック。入学してすぐ作るのが木地挽きの道具というくらい、手作りの道具は重要のようです。
手で木に触れながら厚みをみる川北氏。
「ここをあと2mm削るといい」
「あの道具はもう寿命だから使わないでいい」
「このカンナは鍛冶室で仕立て直そう」
判断や指示が的確でスピーディなことに驚きました。
「カンッ」と一瞬にしてカンナの曲がった刃の部分をあっという間に金づちでへし折ると、川北氏は研修生と一緒に鍛冶室へ。
バーナーの炎で炙りながら鍛冶仕事が始まりました。
今回のように、川北氏がここまで指導して下さることは比較的まれだとは聞きますが、
人間国宝の木地挽きや鍛冶仕事を直接見て学べる研修所は他にはないのではないでしょうか。
ー伝統の技を守るために誕生した電子制御の轆轤
最後に少しご紹介したいのが、2つのベルトで回転方向を変える山中漆器独特の木工用轆轤について。
実は20年以上前から生産が中止となっており、廃業した職人から中古品を調達するなどしてつないでいたそうです。
この”ろくろの確保危機”に立ち向かったのが、同センターと先程ご紹介した修了生の濱口氏(乙綺木工 代表)です。
双方は、石川県工業試験場の協力を得ながら宮城県内の事業者が手掛けるこけし用轆轤を改良し、回転方向や速度を電子制御する回路をフットコントローラーに組み込んだ轆轤を共同開発。
今後は、この新しい轆轤の購入を希望する職人がいれば受注生産する予定だそうで、山中漆器業界だけでなく全国の漆器産地にとっても活性化に繋がる可能性があると期待されています。
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以上のように、加賀市を代表する伝統工芸であり石川県を代表する地場産業である山中漆器は、同センターを中心として脈々と技と想いが受け継がれています。
こんなに貴重な場所なのに、意外と地元の私たちが知らないことが多いのではないかと取材を通して感じました。
地元高校生のインターンの受け入れや、一般や生徒児童対象の体験教室による漆器産業の普及もしている開かれた学び場なので、これをきっかけに興味を持ってくれる人が1人でも増えたら嬉しいです。
加賀商工会議所のマスコットキャラクター商子ちゃんが伝える、
「PLUS ONE!」情報のコーナーです☆
川北 良造さんの作品をもっと見てみたい!と向かったのは、同じく山中温泉にある芭蕉の館です。
こちらでは、人間国宝<木工芸>川北 良造 氏の作品展示室があります。
山中うるし座でも川北氏の作品が見れるコーナーがありますが、こちらでは川北氏の作品だけでなく他の漆工芸作家の受賞作品なども合わせて見ることができ、秋には庭の美しい紅葉を愛でながらみてまわることができます。
入館するとパンフレットと合わせて、手作りの可愛いつまようじ入れがもらえるのもおもてなしの心を感じてちょっと嬉しかったです。
ー取材メモー
石川県立山中漆器産業技術センター (石川県挽物轆轤技術研修所)
住所 石川県加賀市山中温泉塚谷町イ270番地
TEL 0761-78-1696
営業時間 9:00~17:00(見学は10:00~16:00、体験は10:00~15:00)
定休/無休(年末年始 12月29日~1月3日の間はお休みです)
石川県立山中漆器産業技術センター★☆HPはコチラ☆★
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