星野リゾートが運営する山代温泉の旅館「界 加賀」の内部施設に、器の割れや欠けなどを漆や金属粉などで修復する「金継ぎ」の工房が今年4月に誕生しました。ここでは、宿泊者のみ無料でスタッフ自らが金継ぎする様子を見学できるほか、修復工程の一部が体験可能です。
「器は料理の着物」という言葉を残した同旅館ゆかりの文化人、北大路魯山人。
その言葉に倣い、器と料理のマリアージュにこだわり、器を大切に扱っているなかで
“欠けた器を廃棄するのはもったいない”
と感じた元蒔絵師のスタッフが2019年から金継ぎの技術を広めました。
専門のスタッフが体験者に丁寧に金継ぎを教える様子
こだわりは天然漆を使用すること。
合成樹脂を用いて短期間で修繕することもできますが、大切な器を末永く安心してお客様に使ってもらえるよう、あえて難易度の高い伝統的な金継ぎを選びました。
地元の金継ぎ作家である中岡 庸子講師に技術指導を仰ぎながら、技術を磨いてきたスタッフたち。
今では全体の半数以上のスタッフが金継ぎできるようになったそうで、これまでに修繕を行った器の数は300点以上にものぼります。
中岡講師から技術指導を受ける旅館スタッフたち
体験メニューは3つから選べる
工房内の壁には金継ぎの道具が工程順に展示してあります
体験は、欠けた部分を漆のパテで埋まる「埋め」、継いだ部分に金属粉をまく「粉(ふん)まき」、まいた金属粉を漆で固める「固め」といった金継ぎの代表的な3つの工程から好きな1つを選び、30分程度で気軽に楽しめるのが魅力。
残りはスタッフが仕上げてくれるため、訪れる度に自分が手を加えた器や新たな器に出会える楽しみがあります。
練る作業が楽しい【体験:埋め】
体験中は汚れとかぶれを防止するため手袋をつけます
漆器の下塗でも使われている「との粉」と呼ばれる、石を細かい粉末状にしたものに、
珪藻土を粉砕した「地の粉」を2:1の割合で、水を加えながら混ぜ合わせます。
そこに、漆の木から採取してろ過したものである「生漆(きうるし)」で、食品衛生許可がとれているものを混ぜ合わせていき、粘土状のパテにします。
できたら、修復したいところを埋めるかのようにパテで埋めていくまでが【埋め】の主な体験内容です。
金属粉を蒔く瞬間は写真映え間違えなし【体験:粉まき】
粉まきの体験セット
【粉まき】体験は、【埋め】後に乾燥させた状態の器を使用します。
内容としては、継いだ部分に漆を極薄に塗ったあと、金属粉をまとわせた筆で優しくのせては余分な粉を綿棒で払って…を何度も施してまんべんなく蒔いていきます。
この時に使う金属粉は器の表情に合わせてセレクトするそう。
高価な純金(丸粉)を使うこともあれば、金消粉(消し粉)や真鍮粉、錫銀、銀粉などその種類は多岐にわたります。
ちなみに、同旅館で夏季に提供しているかき氷の器でスタッフさんが金継ぎされたものを見せていただいたのですが、青色の和柄の器だったのであえて青色の色漆で金継ぎしたそうですよ。
器と粉を定着させる【体験:固め】
写真は固め体験のイメージ。体験がきっかけで、自宅でも金継ぎを楽しみたいという方は、売店にて「金継ぎキット」を販売しているので是非
【粉まき】後に乾燥させた状態の器で、【固め】体験はスタート。
この工程では粉と器を定着させるために、継いだ部分(蒔絵粉)を上から生漆で塗って染み込ませます。
ポイントはなるべくはみ出さないこと。
(ガラスのようなツルツルした表面の器であれば、はみ出し部分を除去するのは簡単だそうですよ)
塗れたら、ティッシュでズレないようにその部分を挟んで余分な漆を吸い取ります。
もったいない気もしますが、蒔絵粉の色が上に塗った漆の色で見え方が変わらないようにするためだそう。なかなかテクニックがいりそうな【固め】体験ですが、いずれの体験もスタッフさんが横で優しくついて教えてくれるので安心です。
このように1回の体験で1つの器の金継ぎをするのではなく、工程を分ける理由。
それは、前回の㈱うるしアートはりやさんの記事でもご紹介した通り、金継ぎつまり蒔絵を施す際には”乾かす時間”が必要だからです。
少しずつ時間をかけて大切に継ぐ金継ぎ。丁寧な暮らしっていいなと改めて気づかされる体験となるのではないでしょうか。
旅館入口を入ってすぐ左側に工房はあります
国の登録文化財となっている同旅館の伝統建築棟に飾られた金沢水引オブジェ。
古き良き趣を大切にされているのが随所で伝わります
ー取材メモー
界 加賀
住所 石川県加賀市山代温泉18-47
TEL 050-3134-8092(界予約センター)
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