加賀市加賀橋立伝統的建造物群保存地区に指定されている加賀市橋立町。
すぐそばに日本海を望むこの自然豊かなまちで、伝統技法「吹きガラス」の職人として工房とセレクトショップを構える秋友 伸隆 (あきとも のぶたか)氏を今回はご紹介します。
ありそうでなかった!「太閤鏡餅®︎」
吹きガラスによって生まれる柔らかな手触りとフォルム。
金沢金箔を混ぜた煌めく橙の蓋を開け、お米や小豆を注ぎ入れオシャレな鏡餅として気軽に飾れる「太閤鏡餅®︎」。秋友氏の代表作ともいえる人気の作品です。
イベント出店で秋友氏がこちらを並べていらしたのを目にした際、値札なんか気にせず”買いたい!”と手を伸ばした一人である私は、購入以来お正月の鏡餅はこれと決めて飾っています。
年の瀬の人混みのなか手に入れた鏡餅であるにも関わらず、我が家ではカビ始める一歩手前までルーズにも飾り続け、固くなった鏡餅に包丁を入れることすら億劫になっていたあの頃の私に早く教えてあげたくなるほどです。
私の記憶が確かであれば、これまでもガラスの鏡餅はありました。
しかし、中が空洞ではないズシリしたガラスがほとんどだったように思います。
中にお米などを入れられ、橙の蓋を外せばお正月の時期以外にも花瓶としても使えるその技術とアイデアは評価され、実用新案登録(2022年7月迄)までされたほどです。
ガラス職人である叔父への憧れからこの道へ
ガラス製造工場の4代目として生まれた秋友氏は、ガラス職人として北海道で工房を営む叔父の姿に憧れ、高校卒業後と同時に弟子入り。基礎からみっちり6年間修行をつみました。
その後、叔父からの勧めで石川県小松市にある観光施設内のガラス工房へ責任者として勤務することに。接客や経営など様々な経験を積むなかで、次第に「自分のペースでモノづくりがしたい」と思うようになり、2011年に現在のGlass Studio Culletを設立しました。
平屋の手前は自身のガラス作品や各種工芸・アート作品を並べるセレクトショップ。併設された奥のエリアには工芸体験も可能な工房があります。
店頭では看板犬のツルコが迎えてくれますよ。
橋立というまちを選んだ理由
「小松市で勤務していた頃、橋立町の方々と繋がる縁があり、この地を紹介されました。よくよく聞くと、修行時代に住んでいたことのある小樽と橋立が、北前船という歴史的な繋がりがあること。そして、橋立町が当時県内に3つしかなかった国選定の重要伝統的建造物群保存地区の1つとなっていたことに可能性と縁を感じたから」と、この地に住むことを決意した秋友氏。
優しくゆったりとした語り口の秋友氏の雰囲気に合う、自然豊かで落ち着いた立地と店内は、訪れる人の癒やしの場ともなりそうです。
ふと、店内で見つけたのは、こちらも以前にイベント出店されていた際に購入した「しずく」というガラスではないですか!
好きな色を組み合わせて透明なひもで吊るすと、素敵な空間がつくれるので個人的におすすめです。
小松市にあるカフェ、こまつ町家文庫さんにもこのしずく飾りが天井から大量に吊るされていてアートですよ~。お店へ行かれた際は必見です。
手に取る人を笑顔にするモノづくり
秋友氏は、職人としてコップや花瓶など定番のガラス商品を制作する傍ら、一生をかけてやるテーマとして気持ちが向いた時だけ、太閤鏡餅®︎や縁起物といった自分の表現したい作品づくりをするとか。
どちらの制作においても、扱ってくれる方が笑顔になるようなもの「笑顔のガラス」をつくりたいと心を込めます。
ガラスの成形技法のひとつである吹きガラス。ちょうどつくるところを拝見させていただきました。
そもそもガラスの主な原料は、ケイシャ(石英)+ソーダ灰(塩)+石灰石(方解石)などの鉱物です。それらを素焼きポットと呼ばれる溶解炉で、1,300度まで温度を上げて高温溶解させます。
「溶けたガラスは、水飴より柔らかくてちょっと粘り気のある水って感じです」と秋友氏。
一番難しいとされるのは、これを吹き竿と呼ばれる棒で巻き取る作業だといいます。
普通にすると棒の上にしかつかないそうですが、棒の先で丸く綺麗に巻き取り、第1段階である下玉という芯をつくることが技術の見せどころ。習得するには3年はかかるそうです。
下玉からもう一回ガラスを巻き付けて、ちょっとずつ大きくしていく。ガラスの量は作るものによって変わりますが、かたちを整えながら息を吹き込んでいきます。
トングのような器具で表面をつまんだりすると、そこには息が入らないため模様になり、色付きのガラスや金箔などをコロコロと付ければカラフルな色味がプラスされます。
第2段階はカーボンの板で底の真ん中を少し凹ませて、作品が立てるようにする工程。ものの数秒で作品の底が出来上がりました。
一旦別の棒に新たに溶けたガラスを少量巻き付け、柔らかいうちに先程の底にくっつけます。
棒を回転させながらかたちを整え、息を入れていた方の棒の先端を軽くヤスリですった後、「コンッ」と叩いて一気に切り離します。
このままではガラスに穴が空いた状態なので、また溶解炉へ入れてじっくりと柔らかくします。
ここからも一瞬の作業!
炉から引き出してすぐさま轆轤のように棒をコロコロと回転させながら口を広げ、あっという間にコップのようなかたちになりました。
この熱しては口を広げる第3工程を終え、作りたい器のカタチにできたら、底につけていた棒からまたもや叩いて切り離します。
最後に切り離したところをバーナーで炙り、裏印としてスタンプを押したら完成です。
ガラスは生きものではないか?
そう思えるほど、職人の刹那の判断や技によりオレンジの玉から透明な作品へと一瞬にして変化を遂げる様は素人でも見入ってしまうほどでした。
お店以外ではどこで出会える?
秋友氏の作品はお店やネット以外でも、クラフトイベントや近隣のイベントでも出会えることがあります。時にはガラスの箸置きづくりなど、大人から子どもまで楽しめる体験メニューで出店することも。
詳しい出店情報はInstagramやFacebookをご確認下さい。
―取材メモ―
Glass Studio Cullet
(ガラス工房 カレット)
住所 石川県加賀市橋立町ウ196
TEL 0761-75-2400
営業時間 10:00~16:00
定休日 月曜、第3日曜
※工房では運が良ければ制作の様子を見学できます。体験は要予約。
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