山代温泉に最近完成した話題の「山代スマートパーク」から歩いて2分。
創業から四代、100年以上続く九谷焼の窯元 九谷美陶園があります。
こちらは、九谷焼の職人たちによる成形、絵付け、窯入れまでの一連を工房見学が可能なだけでなく、珈琲を工房で作った九谷焼の器でいただける喫茶スペースまで揃う人気の窯元。
なんといっても、500種類以上の九谷焼が並ぶ広々35坪のショールームが圧巻…!
「古九谷風」、「魯山人風」、そしてオリジナルブランドである「瑛生モダン」の3種を中心に、普段遣いできる温もりある器から書道用の水差しや植木鉢まで多用な九谷焼を製作しているほか、地元作家たちの作品も展示販売しています。
そんな九谷美陶園の工房を代表取締役の寺前 伸哉 氏にご案内いただきながら、九谷焼についてご紹介いただきました。
九谷焼発祥の地、加賀市
かつて加賀百万石と呼ばれた日本一の外様の国をここ石川県で築いた前田の殿様。
そのもとで、17世紀中頃に陶石が今の加賀市山中町である「九谷村」で発見されたのをきっかけに、九谷焼(古九谷)の生産が始まったといわれています。
歴史は360年以上。産地は加賀市、小松市、能美市、金沢市と広範囲に広がっています。
「分かりやすく一般的に言うなら、大量生産できる窯元が多くあるのが能美市や小松市。加賀市は一人で作陶されている職人さんが多いまち」と、九谷焼の産地の違いを教えて下さった寺前社長。
背景には”ジャパンクタニ”として九谷焼の名が知れ渡るきっかけとなった、明治時代に開催されたウィーン万博があります。
当時、能美市や小松市でそれぞれ陶石が発見され、素地の生産技術が向上して大量生産できる窯元が増えたことにより、大量の九谷焼が海外輸出されるようになったのです。
対して加賀市は、この九谷美陶園のほかに数軒数えるほど窯元があるのみで、いわゆる作家として個人でされている方が多いといいます。
美陶園のはじまり
1914年(大正3年)、社長の御曽祖父(初代 為吉さん)の時代に山代の専光寺前に本家をかまえ、九谷焼の絵付けと販売を開始。
その後、今の場所に移転。御祖父(二代目 英一さん)の時代、1945年に㈱九谷美陶園を創立し、窯元となりました。
当時は九谷焼の素地作りが中心の会社でしたが、昭和の終わり頃、御父上(三代目 英夫さん)の時代にショールーム部分を増築。ちょうどこの時代に、英夫さんの名前にちなんで「瑛生」という作家名と「瑛生モダン」というオリジナルブランドが誕生しました。
光り輝く美しい石という意味の”瑛”を用い、九谷美陶園の器が「優れて美しい石を生かす」ことを望んで、東京芸術大卒で料理研究家の志の島忠 氏が命名したといいます。
そして、令和の初めに現社長が着任。
「これだけ長く続いている窯元は少ないので、地域のためにも九谷焼の火を絶やさないように続けていきたい」。寺前社長は、ご謙遜されつつも熱い想いを語って下さいました。
いざ、工房見学!
お話を伺ったあとは、工房見学へ。
まず、こちらが粘土から成形する場所になります。
昔はここでズラリと職人さんたちが粘土から轆轤をひいていたそうですが、リーマンショック以降はほぼ外注にシフト。轆轤をひいてもらったものを納品してもらうものと、内製で型を使ってつくるもの、両方の素地を使っているそうです。
その型でつくる「鋳込(いこみ)成形」の様子をみせていただいたのですが、とても興味深かったです!
上のお写真。苧野 直樹氏の工房でも拝見した「泥漿(でいしょう)」です。
今回は素地に絞り出してのせる一珍技法で使うのではなく、この泥漿を専用の型に流し込んで固めることで素地に成形するために使います。
上の写真は型に流し込んで1時間ほど経った状態のもの。
トロトロ状態の泥漿がすでにかたちを成しています!石膏の型が水分を吸収してくれるからだそうです。りくつな~!
ちなみに、主に九谷焼の成形にはこのような「鋳込」のほか、
職人の手で生み出す「手びねり」や「轆轤」(轆轤のやり方も幅広くあるそうですが)、
硬めの粘土を型に押し入れて成形する「押し型」、
そして大きな設備がある小松市や能美市の窯元では、機械でいくつもの型に一気に泥漿を流し込み圧力をかけて成形する「圧力鋳込」などがあるそうです。
成形、加工、乾燥を経て、素焼き窯へ
成形、加工、乾燥を経たら、素焼窯に入れて約800度で素焼きします。
焼き上がりを触らせてもらうと、硬く、手の水分が持っていかれるような手触り。少し指で弾くとカーンっと高い音がなります。
これに、焼成すると陶磁器の表面をガラスコーティングで強化する役割をもつ「釉薬」をかけます。
この釉薬にも色んなやり方や種類があって、以前ご紹介した轆轤師の前田 昇吾氏は「淡雪釉」をかける作風でしたね。
今度は約1300度の高温で長時間。本焼きへ
こちらでは、ガスの本窯を使って約1270度で12時間焼いています。
焼き上がりは、白くてツルっとした触り心地。指で弾くとコンコンって硬そうな音がします。
それに上絵を施していきます。九谷美陶園では上絵付けの作品がほとんどで、職人さんたちが一つひとつ丁寧に五彩の色絵を入れていました。
たくさんの種類の絵付けをするので、筆もたくさん使い分けているようです。
こちらは数年前に九谷焼の絵付け師として入ってこられた職人さん。
なんでも、山中漆器の蒔絵師としてもずっとご活躍されている方だそうで、九谷焼の絵付けも学びたいと両立されているそう!
「九谷焼の上絵付けは描いても消せるのが面白い。蒔絵と違い、絵付けからの製作期間が短いのもいい」と、その魅力を教えてくれました。
絵付窯で焼成したら、鮮やかな九谷焼に
絵付けされた作品は、絵付窯で約800度のなか8時間位焼くと発色します。
窯の中はまさにパズルのよう。
作品同士が重ならないように、”あし”と呼ばれる台を組んであります。
無駄な空間を生まないように、作品によってサイズも違うので細かいもので調整するなど、この窯の中にも芸術が垣間見えます。
こうして完成した九谷焼はお店のショールームに並べられ、全国各地で開催される催事やネットでも販売されます。
工房見学では、これら製作した九谷焼の見本約400種が棚に保管されているところも見ることができます。
庭を配したショールーム
ショールームにはオリジナル製品が約400種類に、地元作家らのものが約100種類。計500種類ほどが並んでいます。
そんな中、一際目をひいたのが当時の新聞記事とともに展示販売されていた「金襴手瓔珞文湯呑」という作品。
今上天皇陛下がご成婚される前の1992年10月に、石川県加賀市の国民文化祭をご覧になるため山代温泉へ訪れた際に購入された夫婦湯呑です。豪華で気品あるこちらの湯呑は今でも人気だそう。
更に驚いたのが、あのオノ・ヨーコさんの作品!
イギリスのシンガーソングライターでビートルズのメンバーであったジョン・レノンの奥様であるオノ・ヨーコ氏が来店時に描かれた非売品だそうです。
そしてこちらも発見!先ほど工房見学時に鋳込成形されていたのはこの線香入れだったようです。これからの時期、活躍しそうですね。
庭を配したショールームの窓際からは、イギリスのガーデンショーで連続受賞経験のある有名な庭園デザイナー石原 和幸氏プロデュースの庭を見ることができるテーブル席も。
お席では珈琲(ホット/アイス)のみですが注文することができ、ゆったりと寛げます。
ちなみに、ちょうどお出し戴いたこの魯山人風のぶどうの大胆なタッチが人気のカップ。余談ですが美○ 憲一さんが展示会にいらした際にご購入されたデザインのものとか。ドキドキしながら戴きました。
最後に
九谷焼に限らずかもしれませんが、完成品だけ見るとどれだけの時間と手間がかかるものなのか分かりにくいもの。
しかし、今回のように工房見学で学び、たくさんの種類をショールームで見て触って確かめ、喫茶エリアで使って楽しめる機会があると、改めて九谷焼の良さに気付かされます。
業界全体でいうと、最盛期の1/3ほどに国内需要が落ち込んでいる昨今。
九谷美陶園では、九谷焼の魅力を国内だけでなく世界中に広めるべく昨年より輸出事業を開始したといいます。
「微力ですが、加賀九谷における輸出事業の足がかりになれば」
と、控えめに笑う寺前社長が眩しくみえました。
―取材メモ―
㈱九谷美陶園
住所 石川県加賀市山代温泉16-71
TEL 0761-76-0227
営業時間 9:00~17:00
定休日 年中無休
※工房見学は基本予約制。喫茶は全8席で予約優先です。
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