クッキーにアイシングを施すかのように、素地にスポイト型の筒から絞り出して描く「一珍(イッチン)技法」を九谷焼に取り入れている若き九谷焼作家 苧野 直樹(あさの なおき) 氏を今回はご紹介します。
一器の表情をより豊かにする一珍描き
そもそも、「一珍」とはチューブ型、もしくはスポイト型の筒のことを指します。
着物を染める伝統技法としてご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、焼き物の世界でもこの技法は伝承されています。
スポイトの中身は泥漿(でいしょう)です。
粉末状の粘土に水や釉薬などを配合し、網でこしながら滑らかな泥漿をつくります。
上の作品では、泥漿に火を入れると淡い紺青色になる和絵具を混ぜ合わせてから器面に絞り出しているため、 焼き上がりは立体的な一珍描きの陰影が器に奥深い表情を与え、魅力がより際立つ仕上がりになっています。
スポイトを押す力の加減により、線の太さやドットの大小を調整。
素焼きの表面に泥漿の水分が吸われて、次第に固くなっていきます。
下の写真は、一珍描きの線の太さを自在に変えた作品。
例えばこちらの小皿にお醤油などを入れたら、ダルマさんの顔がハッキリと浮き出てきて楽しそうです。
ー影響を受けた父の存在
青い釉にこだわり、 今や”苧野ブルー”と称される 「オーシャンブルー彩流」を創出した九谷焼の名匠 苧野 憲夫(あさの のりお)氏を父もつ直樹氏。
幼い頃より九谷焼が身近な存在で、自分でつくったものをお客様に使ってもらえる焼き物に魅力を感じていたことはもちろん、人がやったことがないことに挑戦してかたちにしている父を目にし、”自分もやってみたい”とこの道を志すようになったといいます。
京都の陶工高等技術専門校を卒業後は、経験を積むため㈱九谷青窯へ10年ほど勤務。ロクロ師としてだけでなく、”焼き物と料理の相性”について深く学ぶことができたといいます。
ー自分らしさを求めて
「このままではやばい!」
そう漠然と思ったことが一珍描きを始めた理由だそうです。
独立後、父の陶房である旭泉窯でロクロを挽きながら自分の作品をつくっていた直樹氏ですが、”親のやっていることをそのままやるのでは自分らしい作品は生み出せない”と考えた直樹氏は、白磁に一珍を施す作風を確立させていきます。
きっかけは、テレビで偶然みかけた”よく見ると市松模様が入った白い着物”。
着る人の美しさを引き立たせていてカッコいいと感じた直樹氏は、器も料理や合わせるものを引き立たせられるような白磁をベースにしようとその時思ったそうです。
ーこれからについて
「今はコロナでなかなか海外へは行きづらいですが、落ち着いたら世界中で展示会を開いてみたい」と語る直樹氏。
独立して間もない頃、若手作家7人でニューヨーク展として共同出展した際、お茶の先生であった祖母から教わった茶道の腕前をニューヨーカーの前で披露して展示会場を盛り上げたこともあるそう。
「今はとにかくできることを。色々チャレンジして学びたい」と、作陶の合間には意欲的にロクロ実演の講師としていしかわ生活工芸ミュージアムなどへ出向くこともあるといいます。
また、片山津温泉の総湯近くに出店している「うつわ工房すいか」でも、観光客の足が戻ってきたらもっと作品を展示販売できるようにしたいと、現在リニューアルに向けて励んでいます。
つい先日の1/12(水)~18(火)には所属する加賀九谷陶磁器協同組合の組合員として、阪急うめだ本店(大阪府)9階で開催される「現代加賀九谷作家展」にも作品を出展しました。⇒詳細はコチラ
関西圏の方々にとっては、直樹氏の作品を直接目で見て、一珍描きの繊細な手触りを確かめられる貴重な機会だったのではないでしょうか。
毎年9月には銀座のギャラリー(東京都)にて「苧野憲夫・直樹 作陶展」も開催しているそうなので、首都圏の方々も要チェックです。
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加賀商工会議所のマスコットキャラクター商子ちゃんが伝える、
「PLUS ONE!」情報のコーナーです☆
上の写真でカップの内側を指でさしている部分にご注目下さい…!
実はこちらの作品は、焼酎などのお酒の濃さを調整しやすいようにと模様で分量が分かる工夫がされているそうです。
指差すラインは7:3の濃さをつくる場合。
この模様の一番下がっているドットの部分まででつくると、6:4の濃さになるんだそうですよ~☆
焼き物と料理の相性だけでなく、生活の中での使いやすさを考えて作陶されている苧野 直樹 氏らしい作品ですね。
ー取材メモー
苧野 直樹
うつわ工房すいか
住所/加賀市片山津温泉71-102-12
営業時間/9:00~17:00(現在リニューアルに向けて準備中)
定休/不定休
\以下のサイトでネット販売もしています/
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