加賀市の伝統工芸「山中漆器」が出来上がるまでの工程について学ぶべく、山中漆器アーティストの田中瑛子氏と、同じく市内でFUZON3KAGA Cafe and Studio(以下、FUZON(フゾン))を営むご主人の山根大徳氏にご協力いただき、引き続き取材してきました!
町屋を再生したフゾンは、山根氏が経営されているセンス溢れるおしゃれな雰囲気のカフェ。
平日でもお客さんが絶えず、特に女性客に人気のお店です。
その奥にあるのが、ガラス張りで見学することができる田中氏の作業場。
まずはこちらで木地挽きの実際の様子を見せていただきました。
1.木材選び
~キラキラと反射する杢(もく)の魅力~
同じものをいくつも作る木地師の場合、予めお椀になる手前の状態である「荒挽き」を購入してから木地挽き作業へと続くことがほとんどですが、一点物を作ることが多い田中氏は木材選びからはじめるそう。
仕入れは基本、国内から。
(海外の木材でも良いものはあるそうですが、大きな木材の場合は伐採した木を海に浮かべて保管してから船に乗せ換えて輸出されることが多いとのことで、塩水が大敵な漆にとってはアウトだからだそうです)
数ある種類のなかで田中氏が使いたいという木材は、栃の木などに出やすい「杢(もく)」が入ったもの。
木目とは違い、漆で磨くと金色の模様が出てきてキラキラと光る木材です。 杢は木独自の模様であり、漆の伝統技法である「拭き漆」で活かせるため、田中氏の作風の一つとなっています。
2.木が動かなくなるまで乾燥
~理にかなった再利用~
木地を挽くとどうしても出る削りカス。
素朴な疑問として、この後これらがどうなるか聞いてみると、
「昔の作業場は荒挽きをたくさん屋根裏や二階に置き、これら削りカスをストーブで燃やして再利用することで、程よく乾燥を促していたそうですよ」と、教えてくれました。
木にはそれぞれ個性があり、水分の抜け方が違うと歪む。
これを田中氏は「動く」と表現していました。
木によって乾燥期間が違うのは勿論のこと、それぞれ個性を見極めて水分調整し、動かなくなってからやっと薄く挽くことができるのだといいます。
3.木地挽き①
~山中の轆轤技術の秘密は2本のベルト?!~
木地を成形する際に使用する電動木地挽き轆轤。
パタパタと足元のペダルを踏むごとに、リズミカルに2本の平ベルトが入れ替わり、回転が反転します。
「他の漆器の産地では、ベルトが1本で回転も一方方向なのが通常なんです。なので、手前回転で器の外側は削れるけど、内側を削るには職人が場所を移動しなければならない。しかし、山中は先人たちが2本のベルトで効率的に内側を削る方法を考えてくれたこともあり、全国一の木地轆轤挽き産地となったんだと思います」
毎年全国からこの高い伝統技術に魅せられてたくさんの人が学びにやってきますが、十数年前、田中氏もその一人だったことは言うまでもありません。
4.木地挽き②
~削る順番と道具~
基本的に削る順番は、外側のアウトラインを削ってから内側を削るそうですが、作品によって削る順番を自分で構築しないと、あとで「この場所は削れなかった」となってしまうといいます。
また、削っていくうちに出てくる模様もあり、木地挽きはまさに木と職人の頭脳戦とも言えます。
これが数量をこなさねばならない職人さんの場合だと、サイズを揃える正確性も重要視されます。そこで生まれたのがメジャー代わりともいえるアタッチメントです。
轆轤にアタッチメントであるハメを設置し、そこに荒挽きを打ち込んでセットします。ハメの直径と荒挽きの直径を削りながら揃えることで、器の口径をそろえることができるのですが、1つ挽くのに外側用と内側用の2種類を作る必要があるそうです。
道具といえば、作業台にはたくさんの刃物も。
山中漆器の技術を習うには、まず道具を自ら手作りするところから始めるといいます。 使うたびに砥石で研ぎ、道具を替えては作品の表面を徐々に滑らかにしてきます。
山中漆器の得意とする漆塗りの一つである拭漆仕上は、鉋の切れ味が漆によってあらわになるため、木肌をきれいに仕上げる技術が求められています。
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さて、ここまでが木地師としての木地挽きの工程でした!
次回は塗師としての工程をご紹介します⇒コチラ
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