職人のまち加賀

加賀市の伝統工芸/蒔絵/工房見学/協力 うるしアートはりや

 

 

山中漆器の産地、山中温泉。

この地で家族で蒔絵作品を制作している㈱うるしアートはりやの工房にお邪魔しました。

 

 

1階はギャラリー。2階は工房となっている白い建物。

玄関にあるフクロウをモチーフとしたアートな表札が目印です。

 

  

 

そもそも蒔絵とは

 

うるしアートはりやが生み出した、繊細で華やかな蒔絵作品

 

蒔絵は漆工芸の代表的な加飾技法の一つであり、日本独自のもの。

ウルシの木の幹から採取した樹液である生漆(きうるし) 、またはそれを精製してつくる漆を使い、漆器の表面に絵や文様を描き、それが固まらないうちに蒔絵粉(金・銀などの金属粉)を蒔いて表面に付着させ装飾を行います。そして粉を蒔いて絵にするところから「蒔絵」と呼ばれています。

日本での起源はの奈良時代ですが、平安時代から「蒔絵」と呼ばれるようになり、鎌倉時代に蒔絵の基本的な技法(平蒔絵・研ぎ出し蒔絵・高蒔絵)が完成しました。

漆は塗り重ねるほど強度が増し、揮発させ飴色にしたものに顔料を混ぜると色漆として美しく発色します。うるしアートはりやは、様々な素材の表面に金銀で絵柄を描く蒔絵 や 貝片で模様を表現する螺鈿などの加飾の技法を施すスペシャリストが集まっています。

 

 

親子4人が蒔絵職人

 

右上から反時計回りに、父/針谷 祐之氏、次男/祥吾氏、長男/崇之氏、
長男の奥様/千賀子さん、次男の奥様/裕美さん、母/絹代氏

 

うるしアートはりやは、1981年に茶道具の蒔絵師、針谷 祐之氏と奥様の絹代氏が設立した蒔絵工房。

現在は長男の針谷 崇之氏と次男の祥吾氏も加わり、親子4人が蒔絵職人として作品を製作しています。

日本独自の蒔絵を身近に感じて欲しいという思いから、茶道具や漆器への王道な蒔絵に留まらず、蒔絵のアクセサリー製作や新しい素材への蒔絵など様々な取り組みに挑戦しています。

 

崇之氏

家族みんなで1つの作品を分担して仕上げているのかな~と勝手にイメージしていましたが、そうではなく4人それぞれ得意なことや作風が異なるため、個々が自分の作品を作り上げることが多いそう。

それぞれ特徴などを長男の崇之氏に紹介してもらいました。

 

【父/針谷 祐之 氏】

伝統工芸士(山中漆器 加飾部門)。

古典の図柄を好み、茶道具の棗や香合などに蒔絵を施す王道の蒔絵師。

また、着物の帯から下げるような紐付きの飾り(根付)を作る根付師としても活躍。高円宮憲仁親王殿下の根付コレクションに展示されたほか、2021年にはゴールデン根付アワードのグランプリも受賞している。

根付館のTwitterより(京都 清宗根付館 所蔵)

【母/針谷 絹代 氏】

伝統工芸士(山中漆器 加飾部門)。

フクロウが好きなのでフクロウをモチーフとした作品や、細やかなタッチから生み出せる「細描蒔絵」を得意とする蒔絵師。

1994年に東京ドームで行われた「テーブルウェアフェステバル 暮らしを彩る器展」にてテーブルウェアオリジナルデザイン部門大賞を受賞したのを機に、白蝶貝や黒蝶貝や琥珀、べっ甲など新しい素材に蒔絵を組み合わせたアクセサリーを生み出したパイオニアとも呼ばれている。

2020年には第22回日本伝統工芸士会作品展最高賞 衆議院議長賞を受賞。

フクロウを描いたペンダント

【長男/針谷 崇之 氏】

伝統工芸士(山中漆器 加飾部門)。

大学で漆芸を学び、入社後は蒔絵アクセサリーブランドとして男性向けの「Mt.Artigiano」や女性向けの「Bisai」などを立ち上げた。幾何学模様や独自の模様を考えて描くことを得意とする蒔絵師。

2021年には、日本伝統工芸士会作品展 異業種交流賞を受賞。

イタリア語で”山中の職人”という意味のブランド名「Mt.Artigiano」のボタンダウンピアス。2012年には石川県プレミアムブランドを受賞。

【次男/針谷 祥吾 氏】

伝統工芸士(山中漆器 加飾部門)。

よく野鳥観察へ行くほど鳥が好き。カワセミを描いた作品が多く、鳥の羽毛など細かい描写を得意とする蒔絵師。

2021年には第93回山中漆器蒔絵展 山中木製漆器協同組合理事長賞を受賞。

カワセミを描いた受賞作品

このように4人それぞれに特徴がおありなので、なんとなくこれはあの方の作品かな?というのが段々分かってきます。ちなみに裏印で確かめることもできます。

 

 

そして忘れてはならない、職人たちを支えるのが奥様方。

長男の奥様、千賀子さんは工房で働く家族の昼食調理を担当。食を通して健康管理をしています。また、近年ネット販売が好調とあって、商品の梱包から発送までの受注業務も担っています。

次男の奥様、裕美さんはHPを担当。特に写真撮影に力を入れており、実物を同じような色味で綺麗に撮れるように頑張っているそうです。もともと文房具の会社で働いており、結婚を機にHP制作に携わるようになったとのことですが、すでにプロ級でびっくりです!

 

コロナ禍で始めた習慣

  

『もうすぐ体操の時間です』

取材中、突然しゃべり出したスマートスピーカー「アレクサ」…!!

驚いていると、「毎日の習慣なのでよかったら一緒にラジオ体操しませんか?」と絹代氏が声を掛けて下さいました。平日14時にやっているNHKラジオ体操がテレビがつけられると、続々と集まるご家族たち。私もカメラを片手にゆる~くですが体操に参加させていただきました。

 

伺うと、始めたきっかけはコロナ禍にありました。

普段仕事中はあまり動かないことに加え、コロナで外へ出歩きにくくなったため、健康維持を考えた絹代氏の発案で1年ほど前から始めたそうです。

5分程度ではありますがやってみるとリフレッシュでき、みんなで同じことをするということもあって一体感のようなものを感じることができました。もしかしてラジオ体操が針谷家のコミュニケーション方法の一つになっているのかもしれません。

 

2階の工房で製作工程を見学

  

 

最初に見学したのがご両親が蒔絵をする仕事部屋。

桜の絵柄が裏描きされた薄い型紙を漆器の盃に押して”あたり”を付けた漆器の盃に、祐之氏がちょうど漆で筆入れをするところでした。木の板の上で漆を出し、一箇所ずつ丁寧に筆を走らせます。

その後、温度23度ほど、湿度75~82%の間に保たれた漆風呂に入れて1日以上乾燥させるので、少し塗っては入れてを繰り返すそうです。おおよそ一つのものを仕上げるのにこの盃だと1か月近くかかるとか。

 

筆で桜を描く祐之氏

 

ちなみに隣の絹代さんは螺鈿細工中で、接着剤代わりに塗られた漆の上に細かな貝を張り付けていく作業にあたっていました。貝は細かくランダムなかたちなので、まるでパズルをするかのように根気がいります。特に最後の方はバランスが良い貝を選ばねばならず技術を要します。

0.08ミリの厚さにスライスされた貝を敷き詰めた螺鈿細工の作品

 

次に案内してもらったのは、息子さんお二人の仕事部屋。

先ほどのご両親の部屋とは雰囲気が異なり、図案を確認するためのタブレットなどデジタル機器が導入された収納の多い部屋で、崇之さんが設計に携わったそうです。

 

  

お二人のイスの真ん中においてあるピンが刺さったような板は、先ほどご紹介したボタンダウンピアスなど細かな作品を製作するのに使うもの。更には、すぐ手に届くところに色んな種類の螺鈿や銀粉、金粉などを入れている棚が並んでおり、金粉を蒔く道具である粉筒も近くに置いてあります。

※粉筒とは、葦簀を斜めに切って布を張り、反対側の口から金粉を入れて作品に蒔く道具。筒を軽く叩くと金粉が出てくる仕組みで、筒の向きを変えると量を調節可能。

ちなみに、毎年開催する工房祭ではこのような工房見学のほか、螺鈿をメインとしたワークショップも体験できるそうですよ。

 

1階のギャラリーへ

  

基本的にはいつでも見学可能だというギャラリースペース

場所を1階へ移し、完成品が展示されているギャラリー兼商談スペースを見せていただきました。

手間暇かけて作られた蒔絵作品は温度と湿度管理が重要なので、空調はバッチリ。

なにより四方に広がる4人の職人たちの作品には圧巻です!

壁には、中谷宇吉郎美術館主催のデザインコンペで賞を受けた雪の結晶がデザインされた漆のオーナメント。ガラスケースや引き出しにはアクセサリーやボタンもカラフルに並んでいます。

  

 

  

作品展示だけではありません。蒔絵の工程が一目でわかるパネルの展示にも興味津々になりました。

下の写真のブローチは、作る工程で1か月はかかるそうです。隣り合うところを一度に塗ると滲んでしまうので、少しずつしか描けません。型を押して、先ず枝と同じ表現の羽とくちばしと足を描いて金粉を蒔き、1日乾かしてから固めの生漆をかけてまた乾かします。1回の作業における仕事量は多くないため、まとめて作って作業効率を上げているそうです。

こういう手間暇や丁寧な仕事を目の当たりにすると、作品の価値が分かるだけでなく、大事にしようという気持ちがますます湧きます。

 

うるしアートはりやの作品でよくみられる技法は基本的に「平蒔絵」。
蒔絵には技法がたくさんあるので詳細はコチラからご確認下さい。

作品は見てみたいけど工房までは遠くて足を運べないという方には、同社が年に1度10月に発行しているカタログ「HARIYA」を取り寄せるのもオススメ。

最新のNO.6の巻頭を飾るのは、崇之氏の受賞作品「光華紋蒔絵 香水瓶」(日本伝統工芸士会作品展 異業種交流賞受賞)です。このカタログも自分たちで撮影して校正しているというから驚きです!

  

  

今後の展望

  

最後に、山中の蒔絵の強みと今後の展望について伺いました。

「山中は丸ものが多い産地。茶道具とか棗の生地は山中が9割以上作っています。”縦木取り”という独自の木の取り方をし、木地を挽く技術も高い。だから木地が安定し、湿度や温度で木が動くことも少ない。木地師、下地師、塗師、そして蒔絵師、それぞれのプロが分業制でつくっているのが山中の特徴であり強みです」と語る崇之氏。

そんな中でうるしアートはりやの強みは、蒔絵と色んな素材を組み合わせられる高い技術だと今回の取材で分かりました。

また、「いつかフランスのパリへ行ってみたい」と崇之氏。

ドイツでの出展を経験したことのある崇之氏にとって、ヨーロッパ、特に芸術の感度が高いパリは世界から人が訪れる場所であり、そこで活動して成功することが今後の目標だそうです。

なるほど、HPを英字版でも見れたり、カタログのタイトルを英字にされているところを拝見すると、着実に夢に向かって進んでいることが伺えます。

今後も躍進していくであろううるしアートはりやに目が離せません。

 

―取材メモ―

 

㈱うるしアートはりや

住所 石川県加賀市山中温泉塚谷町2-124

TEL 0761-78-5154

営業日時 月~土曜日 10:00~18:00

HPならびにオンラインショップはコチラ

Instagramはコチラ

★☆この取材時のYouTube動画はコチラからどうぞ☆★

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA